
2025年9月公募第70回リバネス研究費
第70回 プランテックス先端植物研究賞 募集テーマはこちら
東京大学大学院 農学生命科学研究科附属アグロバイオテクノロジー研究センター 助教
篠崎 大樹さん
- 採択テーマ
- 硝酸シグナル応答を制御環境下での植物の高効率栽培技術に適用するためのプラットフォームの構築
栄養素としての硝酸の利用効率を高め、作物の収量を向上させる
植物の生育には窒素が必要で、その多くは硝酸イオンとして吸収される。篠崎氏は、窒素利用効率を最大化する環境条件を特定し、その成果を植物工場に応用することで、作物の収量向上につなげたいと考えている。
植物独自の硝酸応答に着目
窒素が不足すると植物の成長を阻害し、収量低下を招く。一方で、過剰にあると環境負荷や施肥コストの増加となるため、効率的な供給が重要となる。植物の栄養環境応答を研究する篠崎氏は、農学部に進学し、植物の面白さに惹かれていく中で、植物独自の硝酸応答に関心を持つようになったという。硝酸応答を研究対象に選んだのは、植物の栄養センシングと応答の分子機構の解明が最も進んでおり、成果の蓄積が豊富だからだ。
硝酸イオンは栄養素であるだけでなく、シグナル分子としても機能する。NLP(NIN-like protein)は、硝酸イオンをシグナルとして受け取り、硝酸輸送体や窒素代謝酵素などの遺伝子発現を直接促進する転写因子として機能する。篠崎氏は、NLPを軸に成長促進機構を一括して制御する技術によって、窒素吸収・利用効率の最大化につなげたいと考えている。
「鍵」となる要因を探す
篠崎氏は、モデル植物であるシロイヌナズナを植物育成室内で栽培し、硝酸応答性遺伝子の発現を調べている。自身の研究が基礎研究であることを認識しつつ、「研究者として基礎だけをやっていてよいのか」と考える一方で、社会実装の難しさも感じていたという。そうした中で本賞の公募情報を知り、応用的な社会実装への橋渡しも担えるテーマとして申請できるのではないかと考えた。植物工場は条件を絞り込んだうえで、特定環境下でパフォーマンスを最大化するというアプローチが取りやすいと考えた。高精度に環境制御した空間では、栄養飢餓条件や光条件の変更などを通じて、硝酸を「栄養」と「分子シグナル」に分けて明確に捉えられる。それらのバランスに着目することで、最終的には栄養素としての硝酸の利用効率を向上させることを構想している。
環境条件による硝酸応答制御がもたらす未来
プランテックスの閉鎖型の植物工場では、光・大気・養液などの環境条件を多段階に高精度に制御できる。これらの環境制御技術と篠崎氏の硝酸応答の研究を組み合わせることで、植物工場内で作物の栄養状態がどのように変化するか、より早期に捉えられるかもしれない。栄養応答は単一栄養素の状態だけで決まるわけではなく、光など栄養以外のシグナルや、他栄養素の量・比率の影響も受ける。厳密な環境制御下で硝酸応答を評価すれば、窒素応答を左右する新たな環境要因が見えてくる可能性がある。
植物工場で栽培されるレタスでもNLP転写因子のホモログがあることが報告されており、「将来的にはレタスを用いた試験にも取り組みたい」と展望を語ってくれた。硝酸応答を加速させる条件を見極め、実際の作物でも適応できれば、窒素利用効率を最大化することを実現し、植物工場における収量向上につながっていくだろう。(文・井藤賀 操)