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2025年9月公募第70回リバネス研究費

第70回 プランテックス先端植物研究賞 募集テーマはこちら

九州大学 生物資源環境科学府 博士後期課程2年

金 子詣さん

採択テーマ
園芸施設における根系のバイオマスと活性度の可視化・モニタリング手法の開発

見えない根を可視化し、農作物の高収量・安定生産へ

作物の収量や品質を左右する重要な器官でありながら、土の中にあるため観察が難しい「根」。金氏は、これまで捉えにくかった根の量や活性度を可視化する技術の開発に取り組むことで、次世代の精密農業を実現したいと考えている。

 

作物生産を支える根の機能

根は水分や養分の吸収を担い、植物体の乾物重の2〜6割を占める重要な器官だ。一方で、土壌や培地の内部に存在するため、地上部の葉や茎、果実に比べて、状態を連続的に観測することが難しい。近年の気候変動によって生育環境が変化する中、植物がどのように水分や養分を吸収し、地上部の生育と関連しているかを正確に把握する重要性が高まっている。金氏は、根の量や活性度を定量的に評価することで、この課題の解決に取り組んでいる。具体的には、ハイパースペクトルイメージング(HSI)を活用し、根の量と活性度を非破壊で同時に解析する技術の開発を進めている。

ハイパースペクトルイメージング技術で根を解析

HSIは、人の目では捉えられない光の情報まで記録できる撮影技術で、植物の乾物重や含水率、活性状態などを非破壊で推定できる。研究では、NFT(薄膜型水耕栽培)の底面を透明材質に改造し、園芸施設に近い環境で根全体を継続的に観測できる独自のシステムを構築している。
従来は根の量を評価する研究が中心だったが、実際には同じ量の根でも、若い細根が多いかどうかで吸収能力は大きく異なる。若い細根ほど活性が高く、水分や養分の吸収を通じて生育に大きく貢献するとされる。そこで金氏は、根の日齢や直径、内部構造を解析し、根群全体の活性度を評価する研究を進めている。また、葉の解析で利用されている「放射伝達モデル」を根に応用することにも取り組んでいる。現在はホウレンソウを用いているが、「実際に自分が口にする植物を対象にしたい」と語る金氏。研究成果を身近な食や農業の未来へ活かしたいという思いがうかがえる。

次世代型植物工場を実現する

根の量と活性を連続的に可視化できるようになれば、作物の生育状態をより高精度に把握できる。得られた根のデータは、潅水や肥培管理の最適化に加え、生育予測や収量の安定化にも役立つと考えられる。さらに、地上部の葉や果実のデータと組み合わせることで、植物内での炭素や栄養の輸送、資源分配の仕組みを非破壊で解析できるようになる可能性もある。将来的には、根への資源分配が少なく、活性度の高い優良品種の選抜など、育種分野への応用も期待される。
研究が進展すれば、植物工場ではこれまで把握が難しかった作物の“根の状態”をリアルタイムで捉えられるようになるかもしれない。今後はホウレンソウだけでなく、水耕栽培できる他の植物にも応用し、植物工場による農作物の高収量と安定生産につなげることも目指している。
根の状態をリアルタイムで把握できれば、植物の生育を予測するデータとして活用できる。その蓄積は、将来的なAIによる栽培制御にもつながるため、高品質な作物の安定生産を実現する次世代型植物工場の実現に向けた重要な基盤となりそうだ。 (文・井藤賀 操)